2020年1月22日水曜日

日名子実三作 昭和11年「第三回広告漫画展覧会」メダル

今年の第一回目は、東京朝日新聞社主催、昭和11年「第三回広告漫画展覧会」のメダルです。
原型は「実三」のサインがあることから日名子実三と思われます。

朝日新聞の漫画家といえば、明治19年生まれで大正期に活躍した岡本一平が有名ですが、昭和7年には次世代の漫画家杉浦幸雄や近藤日出造、横山隆一らが「新漫画派集団」を結成し、『アサヒグラフ』の漫画欄「漫画グラフ」で活躍します。彼らの新しい政治漫画やナンセンスに影響を受け、この展覧会があったと想像できます。

そうしてこのメダルを見ると、同じように新しい世代への期待を、当時の新鋭作家である日名子実三に託しているように思えます。
それに応えて日名子実三は、彼の彫刻にはあまり見られない遊びを感じさせる作品に仕上げています。

描いているのはギリシャの神ヘルメス。
けれど、この肩車の姿から想像されるのは、長脚人が長臂人を背負う古き妖怪「手長足長」です。
歌川国芳 『浅草奥山生人形』

「手長足長」は、中国の『三才図会』をもと江戸時代に編纂された『和漢三才図会』に描かれ、脚の長さが3丈、腕の長さが2丈、長脚人が長臂人を背負って海で魚を捕ると記されています。それを題材に葛飾北斎や河鍋暁斎が「手長足長」を描いています。
つまりこのメダルは、背負われた「ヘルメス」と「手長足長」とを結びつけるパロディーを目指したものなのでしょう。
その大人の「笑い」を戦時下の彫刻家として台頭する日名子実三が描いているわけです。

昭和12年には日中戦争(支那事変)が始まり、戦時下を生き残るために漫画家たちもまた戦争に関わっていきます。
このメダルは、その直前、まだ「笑い」を表現できた時代の作品と言えるでしょう。