2017年9月24日日曜日

贋作と美術

今週、80年間行方不明だった雪舟の真筆が見つかったとか。
http://www.sankei.com/life/news/170919/lif1709190053-n1.html
この作品は所在が不明だっただけで、新しく発見されたわけではないからこそ真筆と判断されたのでしょう。
もし、そういったまったく未知の雪舟が発見された場合、その鑑定は困難を極めるだろうと思います。
比較対象の雪舟の直筆作品は少ない上に、膨大な数の偽の作が存在するからです。
かつて、雪舟の絵は大名の娘の嫁入道具であり、そのため「雪舟」と銘された画が数多く生産された時代があります。
本義において、これらは贋作とは言えません。贋作とは、『他者を偽る意図をもって絵画、彫刻、書などの芸術品や工芸品に似せて模倣品を作成すること』であるからです。
ですが、現在ある「雪舟」作の幾つかがそうした『意図』をもって市場の裏側を回っているのでしょうね。

美術品を欲しいと願う人間がいて、それへの供給が間に合わない場合、必ず贋作は生まれます。そんな贋作は美術の一部だと思います。「なんでも鑑定団」はそういった贋作でもっている番組ですしね。
http://www.tv-tokyo.co.jp/kantei/kaiun_db/otakara/20120821/08.html

最近、レニー ソールズベリー 、アリー スジョ  (著), 中山 ゆかり (翻訳)『偽りの来歴 ─ 20世紀最大の絵画詐欺事件』を読みました。
『自称・原子物理学研究者のドゥリューと、元美術教師のマイアット。生活に困窮していたマイアットは名画の模写の仕事がきっかけでドゥリューと知り合い、贋作作家となってしまう。「来歴がきちんとしていれば、ほとんどの売買は成立する」という美術界特有の慣習を知ったドゥリューは、寄贈や寄付の約束を餌にテート・ギャラリーなど著名美術館のアーカイヴに入り、偽造した展覧会目録や売買記録をファイルにはさみ込む。美術館アーカイヴに記録が存在すれば、マイアットが描いた贋作はお墨つきの「ほんもの」となって流通してしまうのである。』
詐欺師ドゥリューによって、マイアットの贋作が2百数点ほど世に放たれます。
そのいくつかは警察によって押収されたようですが、マイアットにとっての駄作であったジャコメッティの画など、未だどこかの壁に飾られているようです。
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG24H4W_U5A021C1000000/

贋作画家マイアットは、刑に服した後、実際の画家として評価されるようになります。
こういうところが英国らしいですね。
マイアットの贋作教室『The Forger's Masterclass(偽造のマスタークラス)』という番組まであります。

マイアットは救われたようですが、実際詐欺師ドゥリューのせいで、周りの人間が皆不幸になっていきます。
そう、彼らの贋作からは、本物の美術作品が持つものと同等かそれ以上の人間の性(さが)を感じてしまいます。まさに『偽りの来歴』という来歴を、「贋作」というマイアットの作品が背負っていると思えるのです。
贋作をそれと知っていてコレクションする人もあるようですが、その気持ちもわかります。(現在、ドゥリューはアメリカにいるとのことですが、何をしているのでしょうね?)

さて、このブログで紹介しているようなメダルに贋作はあるのでしょうか?
どうも、勲章などはあるようですね。この分野はあまり詳しくないので紹介できません。
それと、以前に模造メダルについて書きました。
http://prewar-sculptors.blogspot.jp/2013/01/blog-post_16.html
しかし、これらもまた贋作とは呼べません。

では、これはどうでしょう?

『昭和12年 支那事変記念』のメダルです。
実はこのメダルには別のバージョンがあります。
実物が手元に無いので申し訳ないのですが、それは、黒の背景に兵隊の姿が金メッキされたメダルで、どうもそれが造幣局から出された正式なメダルだと思われます。
では、このメダルは何なのでしょう?

こういう記事もありました。
http://www.excite.co.jp/News/chn_soc/20090511/Searchina_20090511015.html
ここでは本物だと言っていますね。
しかし、何と比べて本物としたのでしょう?
300枚製造されたとありますが、このメダルがヤフオクなので常に出ているのを見ると、国内だけでそれ以上が流通されているように思います。
『中国の他の都市でも同じ種類のメダルが見つかっているという回答を得た。』とのことから、中国国内でも流通していることがわかります。

私は、このメダルは戦後、正規のメダルを模倣して造られた贋作ではないかと考えています。
正規のメダルから型を取ったのか、それとも金型が流れたのか(どこから?)....

私がこの写真のメダルを入手したのは、京都の骨董市でした。
当時まだメダル収集を始めたばかりで、これがどういったものか知りませんでした。
今は先ほど書きましたように贋作ではないかと疑っています。
しかし、「贋作は美術の一部」だとも考えていますし、これはこれで歴史を背負っているとも思い、コレクションとして大切にしています。

2017年9月13日水曜日

小平市平櫛田中彫刻美術館にて 「メダルの魅力」展 開催!

本日より11月12日までの間、小平市平櫛田中彫刻美術館にて「メダルの魅力」展が行われます。
http://denchu-museum.jp/

『小さなメダルの中には彫刻家たちの世界が広がっています。
メダルに魅せられた蒐集家のコレクションを中心に、メダルの魅力をご紹介致します。』

この展覧会には、私のコレクションも展示しており、ブログで紹介してきました幾つかのメダルを実際に見ていただけます。
「メダルの魅力」展とあるとおり、小さなメダルの魅力を少しでも知っていただければ幸いです。

また、10月28日 1時30分より、私のトーク・イベントも開催されることになりました。
どんなお話をしようかとまだ迷っている最中ですが、近代のアート・メダルと、それらを生み出した彫刻家たちの活動にご興味を持っていただけるような話ができればと思っております。

というわけで、来月末は久しぶりの東京です。
お会いしたい方もあります。
芸術の秋真っ盛りでイベントも盛りだくさん…(神田の古本祭りもやっているな~、国立歴史民俗博物館の「1968年」-無数の問いの噴出の時代-展も面白そうだな~~)
いかんいかん!
目的はアート・メダルの布教活動!!

2017年9月9日土曜日

東京オリンピックと天皇像

東京オリンピック...と言っても1940(昭和15)年に行われる予定だった大会のお話です。
2020年開催予定の東京オリンピックでも、そのビジュアルイメージでゴタゴタがあったわけですが、昭和15年も同じようなことで問題となります。

当時、東京オリンピックのポスターデザインは公募されました。それにより一等を得たのは松坂屋京都支店勤務の黒田典夫による神武天皇と八咫烏を描いたものでした。なぜ、オリンピックのイメージに神武天皇なのか。それは、昭和15年が皇紀2600年にあたり、オリンピックはこれを祝したイベントでもあったからです。

しかし、このデザインは「内務省図書検閲課ニ於イテ発行不許可」となります。
その背景には、「神武天皇」つまり天皇の姿を描く事への批判があったのだと言われています。

1935(昭和10)年、菊池武夫議員が、美濃部達吉議員の天皇機関説を「緩慢なる謀叛であり、明らかなる叛逆になる」として非難、結果、機関説排撃を決議します。
こうして国体明徴運動が活発化、それまでゆるい感じで扱われていた御真影に対し、厳しい公の目が差すようになります。

東京オリンピックの問題で、天皇のイメージが扱え難くなったことは、市井のメダル等のデザインにどのような影響を与えたでしょうか?
今後も調べていきたいと思っています。


2017年9月3日日曜日

catalogue illustré du salon

1910(明治43)年以降に出されたフランスのサロンのカタログです。
1910年と1911年、1920年と1921年が手元にあります。

ジャンル毎に一冊作られた日本の帝展のカタログと比べると簡易に見えますが、そういう簡易版なのでしょうか?
このあたりは詳しくないので、これから勉強して行こうと思っています。
というのも、この下の画像を見ていただければわかるように、フランスのサロンではメダルもしっかり彫刻作品として掲載されているのですよね。



こういった作品に日本の作家が影響されないわけもなく、その繋がり、または断絶がわかれば面白いのではないかと。

断絶と言えば、先に書いたように日本の官展においては、メダルを作品として発表した作家はありません。
明治期の博覧会や、官展以外の展覧会、団体展ではあるのに、官展では頑なに無い。
その元となったフランスのサロンでは発表しているにも関わらず。
これは何故だろう?

このあたりを紐解いていければと考えています。

ちなみに掲載頁の上右の作家はLEON DESCHAMPS。下はP.DANTEL
メダル三点の作家はCharles Pillet。https://en.wikipedia.org/wiki/Charles_Pillet

こちらのサイトでも膨大な資料が掲載されていました!
http://antiquesanastasia.com/art/reference/medailles/medailles_francaises/l%27histoire/index.html
奥深いぃ~!!

Charles Pilletについても書かれていますね。
また、先に書きました畑正吉が模刻した作品も特定できました。
http://antiquesanastasia.com/art/reference/medailles/medailles_francaises/l%27histoire/ovide_yencesse/general_info.html

作家はOvide Yencesse(オヴィド・ヤンセス)。
ありがたいことに、この模刻の元となった作品まで紹介されています。
小さいサイズのメダルなんですね。
畑の模刻は横16cmほどありますから、一回り大きく模刻したことがわかります。(裏に小メダルヨリ拡大とあったとおりでした。)

オヴィド・ヤンセスの元の作品の方がちょっと肉厚に思いますが、ほとんど変りないですね、畑正吉の技術力がわかります。