2013年2月12日火曜日

セメント彫刻に就て

大戦末期、物資の不足、配給による統制等々で彫刻家の仕事も立ち行かなくなっていきます。
金属回収命が出され、ブロンズによる鋳造は資金とコネある作家でないと不可能となり、プロパガンダとしての展覧会もいくつか行われるのですが、それに対応することが難しくなっていきます。
そこで、ブロンズ以外の方法で鋳造する方法が考えれれるようになります。
その一つが、 セメントによる鋳造です。
こういった新しい試みを積極的にポジティブに捉え、時局にあった彫刻をといった考えが表明されたりしましたが、まぁ作家にとっては不本意だったでしょうけどね。

画像は、新海竹蔵の作、昭和16年に行われた日本美術院第二十八回展覧会出品「兵士像」。
セメントによる鋳造作品です。
新海竹蔵と言えば新海竹太郎の甥であり、木彫を良くしましたが、このように彫塑も戦前から行なっていたようです。
兵士像という、まさに時局を扱った作品で、院展では珍しいのではないでしょうか。

こういったセメント彫刻をまとめた本が、翌年昭和17年に出版されます。
ポルトランドセメント同業会発行「セメント彫塑写真集
上記の「兵士像」も含まれています。
ハチ公像で有名な安藤照の胸像なんか、なかなか良いですね。
多いのは、中村直人です。彼は軍需生産美術挺身隊に加わったりと、この時局の中で活躍した彫刻家だと言えます。

こういった戦時中に苦し紛れで行なったセメント彫刻が、戦後の日本で面白い広がりを見せます。
例えば、岐阜県出身のコンクリート彫刻家「浅野祥雲」なんかがそうですね。
また、かつて覚王山にあったたぬき寺の軍人像もそう言えるでしょう。
市井の文化、ポップカルチャーとしてセメント彫刻は受容されたわけです。

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