2018年4月22日日曜日

BankART school「 いかに戦争は描かれたか」を読む。

この本は2015年にBankARTスクールで行われた「戦争と美術」と題した講義をまとめたもので、講師は大谷省吾林洋子河田明久木下直之

戦争画についての研究は、戦争画が話題となった1970年代と比べ本当に隔世の感があるなぁと感じました。
戦争体験者が生きていた頃より、今の方が情報が増えているというのは、まぁ、何と言いますか、人間って難しいですね。

藤田嗣治について、多くの情報が出てくるようにありましたが、例えば戦時下の朝倉文夫の戦争協力について語られたものはほとんど見たことがないですね。
高村光太郎については、吉本隆明の本がありますが、アレは詩ですしね。
この本でも忠霊塔などのモニュメントについての講義はありましたが、彫刻についてはほぼノータッチで悲しい。

河田明久さんが、支那事変(日中戦争)時と大東亜戦争(太平洋戦争)時の作品の違いを語られていましたが、彫刻はどうだろうと思い、支那事変時の聖戦美術展と大東亜戦争時の大東亜戦争美術展の彫刻を見比べてみました。

以下が昭和14年7/6~7/23に行われた聖戦美術第一回展の出品作家と作品。

相曾秀之助 傷つける伝書鳩
赤堀信平(招待) 生鮮下の観兵式を拝するして
池田鵬旭 默壽
一色五郎(会員) 従軍記者
伊藤國男 重要任務
伊藤國男 敵陣蹂躪
江川治 征空基地
遠藤松吉 蹄鐵工
大内青圃(招待) 初陣
大庭一晃 水と兵士
岡本金一郎(招待) 腰留め撃ち
小川孝義【大系】 少年快速部隊長
加藤正巳 芽生え行く新東亜
木林内次(出征) 戦盲
木林内次(出征) 傷兵M君像
古賀忠雄 狙撃
古賀忠雄 爆音のあと
坂口秋之助 銃後の婦人
坂口義雄(出兵) 陸軍看護婦
酒見恒(招待) 行軍-群像の一部-
鹿内芳洲 相場の門出
鈴木達 伝令犬
中川爲延 尚武
永原廣 荒鷲
中村直人(会員) 工兵
羽下修三(招待) 蒙原睥睨
橋本朝秀(招待) 伝書鳩
長谷川榮作(会員) 病舎ノ一隅
羽田千年 平和への労苦
濱田三郎(招待) 出征譜
春永孝一 稜線
日名子実三(会員) 慰問袋
宮島久七 皇軍來
宮元光康 濁流
村岡久作(出征) 手榴弾
梁川剛一(招待) 瑞昌の人柱-細井軍曹-
吉田三郎(会員) 軍犬兵
吉田三郎(会員) 治安恢復
吉田三郎(会員) 偵察

聖戦美術展での絵画の特徴は、支那事変の大儀の無さに故に、そのイメージが固定されず、例えば絵画では、支那兵(中国兵)が描かれないとか、背を向けた日本兵が俯瞰で立っている大陸の風景画だとかが多い。
では彫刻はどうだと言えば、兵隊が立っていると言う様な作品にそれほどの違いは見られないのだだけど、ただ聖戦美術時にはモニュメントが無いと言えます。
そして、大東亜戦争美術では、ただ立っている兵隊でもモニュメンタルな象徴としてあることに比べ、聖戦美術では、よりモチーフの個人性が際立っているように思えます。
だから大東亜戦争美術では個人を描く胸像がほとんどありません。
言うなれば聖戦美術はより銅像的であり、大東亜戦争美術はよりモニュメント的だと言う事ですね。

その中でも、中村直人だけは、日本人を美化して描けていて、それによって彼が戦争彫刻のトップランナーに成り得たのだとわかります。

この日本人をある意味記号化して描くというスタイルは、戦後の佐藤忠良らに引き継がれるわけで、この時代はそれを用意したと言えますね。

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